異世界のルーンミドガッツ王国にあるモロク付近の村のお話。
ひとつの村に15歳くらいの一人の少年がいました。
その少年は30代後半の夫婦と5歳離れの妹と4人で住んでいました。
この話はその少年のお話。
〈今ここに〉
バレンティーア。
それが俺の名前。
後ろで縛った黒色の髪。
普段は面白いことがない限りめったなことでは笑わない。
笑わないことから村の人たちは【仮面をつけたバレンティーア】と言い、近づこうとはしなかった。
そんな俺が今日はノービスとして始めて父さんから狩りの方法を教えてもらう。
そのため家から離れ、ファロス灯台島にでかけた。
父はチェイサーというローグの転生職についている。
ルーンミドガッツ王国内でも指折りな強さを持つ。
ブリザーブというスキルを使いクローンスキルを自然と盗んでしまう癖を消し、癖を消す前に盗んだスキルをうまく使い幾多のモンスターを倒し、幾多の町や村を何度も守ってきた。
すごい父をもち、尊敬をして子どもだった自分からノービスになり父と同じような強い人になろうと指導してもらうことになった。
妹もついてこようとしたが危ないからと母さんに見えなくなるまで抱いてもらった。
だが案の定、妹は駄々をこねて母さんを困らせた。
俺はため息をして180度体をかえして家に戻ってきた。
「セラ!!今日一緒に遊べなかった分、明日一日中遊んでやるから今日は母さんに迷惑かけずに村の友達と遊んでな」
「本当?明日いっぱい遊んでくれるの?」
泣き顔はどこ行く風、頬をまだぬらしながらも何事もなかったかのように母さんからおろしてもらい俺に聞いてきた。
「俺がセラにうそついたことあるか?」
「ない」
「だろ?なら母さんと一緒にまっていてくれ」
「うん!あ、兄さん」
満面の笑顔をしながらセラは俺の腕に手をかざした。
「怪我してるよ、セラが治してあげる」
そういいながらかざした手から淡い光、アコライト系列、そしてクルセイダーとパラディンが使うことができるヒールを一般人のしかも10歳の妹が使った。
モロクやモロク付近にある町や村はほとんどの人が信仰心は薄く、そして治安の悪い所に住んでいるせいかさらに神や天使を信仰する人が少ない。
その中でアコライトになれる素質がある人は極まれで俺のすんでいる村ですらここ五十数年間アコライトの素質を持った人はいなかった。
その中で神に忠誠を誓ってもいない当時5歳の子が家族の前で母さんの家事のときにできてしまった火傷を元の怪我のない腕に治した。
そのことが村中に知れ渡り、神の子といわれるようになって今に至る。
そんなセラは5年前よりもヒールによる回復効果が格段に上がり昨日夜に家から抜け出し木に向かってナイフの使い方の練習をしていた時に木の幹が飛び怪我をしたところをあっという間に、そして暖かく治してくれた。
「ありがとう、セラは俺とは違って神の加護があるみたいだな、良いプリーストになれるよ」
「えへへ、兄さんに喜んでもらっちゃった」
セラの満面の笑顔につられて俺も少しではあるが微笑んだ。
「それじゃあセラ、母さん、今度こそ行ってきます」
「兄さん、いってらっしゃい」
「はい、いってらっしゃい、練習がんばるのよ」
「はい」
俺は返事をしてから体を反転させ走って父親の所へ行った。
「セラは泣き止んだみたいだな」
「うん」
「それじゃあ修行に行くか」
「はい!!」
二人は近くにあるファロス灯台島まできてドロップスを主に倒していった。
モンスターの攻撃を回避する方法、相手の急所をねらう方法、動きの無駄をなくす方法など一日では覚えきれないほどの量を丁寧に、そしてわかりやすく説明をしてもらい、一人でも復習ができるようにしてくれた。
夕日が傾きあと半刻で暗くなるというところで今日の修行は終わった。
「ありがとうございました!!」
「おつかれさん、それじゃあ家に帰るか」
「はい」
(あとちょっとでノービスから転職できるって父さんがいってたし、夜がんばって転職できるまでなっちゃおっと)
二人は父親の一人で狩りなどするときのことや、俺がセラや村の友達と遊んでいるときのことなどを話しながら1時間ほどの長い家路についた。
「・・・ん?」
歩いている時に東の方向から大きな音がした。
二人は東の方向、村のあるあたりから聞こえた音に驚き急いでもどった。
「…なに…このモンスターの数…」
俺は驚きのあまり腰が抜け、失禁をしてしまった。
それもそのはず、多くの場数を踏んだものですら恐怖を覚えてしまうモンスターの数と惨劇の跡。
アノリアン、ハーピー、ガーゴイル、デザートウルフ、などファロス灯台島付近にいるモンスターたちが所狭しといる。
極めつけが多くのモンスターのボスクラスである空の覇者ともいえるグリフォン。
地上を焼き尽くすほどの火を、ミュータントドラゴン。
この二匹のモンスターがモンスターを統率をして、村を襲った。
「お前はうまく隠れていろ!!」
父さんは腰を抜かした俺をおいて村にいるモンスター達を倒しに行った。
チェインウォークで姿を消し、一体ずつ音も影もなくたおしていった。
倒されたモンスターの近くにいるものたちは何が起こっているのかわからず仲間が暴走したのかと仲間割れをしていった。
見えない恐怖。
見えているガーゴイルすらみつけたときには声もあげれず死んで逝っている。
クローンスキルは補助として一対複数の場合チェインウォークにより倒して行った。
だがモンスターたちをとりまとめる二匹のボスは自身の翼を使い微かな風の流れを見極め父さんのいるところをみつけた。
気づかれたと知り、最後の一体をたおしてチェインウォークを解除して二匹のボスと対峙した。
殺される前に殺す。
それが父さんの唯一といえる戦闘における考えである。
殺される前に殺すという考えがあってもグリフォンやミュータントドラゴンなど二匹もの強力な力をもったものと戦うときは逃げる選択肢をつかった。
だが今は妻子がいて、さらに村のものたちと深いかかわりをもった。
いたるところに村の住人の死人がいる。
老若男女かまわずに…
二匹の大きなボスは体中に赤色、酸化しはじめて赤紫色になりつつある血をつけていた。
怒りという感情はない、戦場にていちいち殺された者の弔い合戦などしていたら命がいくつあってもたりない。
だが仲良くしてくれた村の人たち、父さんの妻である母さん、娘のセラ、そして息子である俺。
殺された人たちの無念という怒りに似た、だが怒りではないただ殺された者たちのしたかったことをする。
村を守るということを、家族を守るということを、自分とかかわってやさしくしてくれた人たちを守るということを。
と、俺は父さんの考えが手に取るようにわかった。
危なくなったら逃げろ。
殺される前に殺せ。
相手に気づかれずに静かに近寄って急所をつけ。
など、基本的な戦闘の考えをものごころがついた時から教えられそれにしたがった。
だが危なくなったら逃げる、というローグだけでなくどんな人にも言えることをあえて無視して見るからに父さんよりも強いであろうモンスターと戦っている。
戦いに心を持ち込むなとも言った人が逃げずに戦う理由が村の人がやりたいことならば俺は同じ村の戦い意外のやりたいことをするべきだと考え、動き出した。
モンスターは見る限りもういない。
モンスターの気配もなく、大丈夫だと判断してまず一番近い家にいってみた。
人の気配がない。
入り口付近の人たちはモンスターが入ってきたことを一番に知り、うまく逃げたようだ。
次の家、次の家と見てまわり、逃げれずに殺された人たちが多く、血痕が残っていた。
体はほとんどなかった。
手、足、腕、とパーツだけしかのこっていない人、全身が残っている人もいたが完全に血だけが残っていなかった。
ものすごく気持ち悪くなったが一歩ずつ父さんの迷惑にならないように回り込んで自宅まできた。
自宅は村の一番奥のため一番危険だった。
逃げ場がなく、気づいたときはもう逃げるには困難な場所・・・
心臓をつかまれているような感覚で家に入った。
多くのモンスターが入ったのか母さんの体がなかった。
やぶれた服、血痕、所々残っている肉片、そして一番大切にしていたサンゴの髪飾りがおちていた。
大量の血痕が残っている時点で生き延びているという確証をたたれた。
サンゴの髪飾りを手に取ったが泣こうにも泣けなかった。
今の自分では何もできない、今の自分では助けることすらできない。
苦しすぎて俺自身が壊れそうになった。
だが俺はセラが母さんの近くにいないことに気づき、セラと俺の二人の部屋を見に行った。
ぱっと見回して小さな人影がベッドの下にあった。
セラがまだ生きていたと思い急いで走りよって声をかけながら引いてみた。
「セラ!生きているか!?お・・・」
人影はセラだった。
だが頭だけ・・・
体はすべてなくなり、食われたようだ。
「は・・・はっはっは・・・な、なんだよ・・・なんで・・・神がついてるんじゃないのかよ・・・まだ先の長い、俺なんかよりも生きていく価値のあるやつなのになんで死んでるんだよ・・・明日遊ぶんだろ・・・なあ・・・」
俺はセラの頭を胸に押し付け、何かが壊れたかのように大声をだした。
「神さんよ!なんで俺から多くの人たちを奪う!助けてくれよ!」
右手にサンゴの髪飾りを、腕の中にはセラの頭を抱え、苦痛の顔をしながら家の外にでた。
父さんのところにいってみたら、ことはすでに終わっていた。
自身も血だらけになりながらもミュータントドラゴンもグリフォンも息絶えていた。
「・・・父さん」
「なにもいうな・・・」
可能性から現実となったことが俺の手の中のものでわかり、足を引きずりながらも近寄って抱き寄せた。
一瞬震えている父さんがいたが気づかないふりをした。
「・・・わかるやつだけのでも村の人たちの墓をつくってやろう」
「・・・うん」
二人は一つずつ墓をつくり、最後に・・・
「父さん、母さんのこのサンゴの髪飾りとセラのこのイヤリング、もらっていい?」
「いいぞ、大事にするのならな」
「絶対に大事にする」
形見を手に入れ、二人を忘れないようにとふたつとも髪飾りは髪の毛に、イヤリングは耳につけた。
「セラ・・・またあとでね、絶対にくるから」
セラと母さんの髪飾りとイヤリング以外の遺品を埋め、墓のまえをはなれた。
「明後日、ここを発つから準備をしとけよ」
「・・・うん」
本当は明日にでも発ちたいのだが明日の約束を守らせるために明後日に発つことにした。
父さんなりの優しさが身にしみた・・・
家につき、自分のベッドだった場所にいきその日は無理やり眠った。
次の日・・・
俺は無理やり眠ろうとしたがやはり頭がすっきりとしていないためか?晩中眠れなかった。
人が目の前で死んだことの恐怖も加算されて・・・
「それじゃあセラのところにいってきます」
「いってきな」
軽くご飯をつくってもっていき、セラのいるところまできた。
「セラおはよう、今日は遊ぶ約束してたからいろいろと遊ぼうとしたけど今日はいっぱいお話しよ」
心が痛むが無理やり笑顔をつくり、いろいろと話かけた。
修行のときのこと、俺が間違えてポポリンを叩いてしまって逃げ回ったときのこと。
買い物しにいったら迷子になったときのこと。
友達と遊んでいたときにみつけた秘密の場所など、他愛のないことを一晩中話した。
夜になり、最後のお別れを言おうとしたとき。
「それじゃあまた、今度は・・・いつにな、いつになるかわからないけど・・・またくるね」
溜め込んでいた涙が一気に流れ始めた。
「ばいばい、またね」
手を振り、大粒の涙を流しながらもゆっくりと歩いて家にもどった。
「・・・ただいま」
「おかえり」
明日の準備をするため部屋にもどり、必要なものを袋の中にいれた。
「おやすみ」
準備もおわり明日にそなえて早々と父さんに就寝の挨拶をして眠りに入った。
家を発つ日になり、二人は家をでた。
「モロクに俺の親戚がいる、その人にお前をあずけるからな」
「え・・・?父さんは?」
「俺は今回のことを国王に報告をして、前々から言われていた国のモンスターの討伐をすることになった」
「それなら父さんと同じことをする」
「お前はもっと強くなって友達も多くつくることのできる町のほうがいい」
「でも!」
「お前のためでもあるし、俺の旅は今のお前では危険すぎる」
父親がそういうことは本当に危険なことをあらわしている。
下手すれば今回のこと以上の危険なことになりかねない。
「・・・わかった、でもいつか強くなったら旅にでる」
「がんばってみろ」
頭をなでられたが、まだ村のことがひっかかり笑うことはできなかった。
それから約半日がすぎモロクの親戚がいる家まできた。
前々からなにかあったら預けさせてもらう約束をしてたようですんなりと了承をえた。
父さんは一泊してからすぐに旅立ち、俺は強くなるためまずはシーフになった。
父さんが俺とわかれてから数年がたった。
強くなる、その気持ちだけが大きく、大量のモンスターを倒し、父さんと同じローグになりモロクにのこった。
日々の鍛錬は教えてもらったとおりに、そして自分なりの方法で強くなり、モロクでも強さの評判はよかった。
だがもともと知らない人と話すのは好きでない俺は忘れかけていたあだ名が強さとは別に悪い評判として同じようにつけられ人々を敬遠させた。
【仮面をつけたバレンティーア】という言葉をいわれた。
気にせずにローグとしてすごしてきたが、如実に親戚の叔父や叔母がいやな顔をしていた。
笑わない俺はだんだんと人から離れはじめ、一人でいることが何日も続くことが多かった。
そして一人でいることが今日も続くとおもった日。
「こんにちは」
座りながらそっと声をかけた人をみた。
髪は黄色く、それなりに長い男性だった。
女性のような顔をしていたため女性かとおもったが、男性のプリーストの服をきてにこにこと笑っていた。
「僕は福神漬けといいます」
俺の無視した行動も気にせずに一つ一つ話しかけてきた。
「あなたの背中のところにあなたに似た天使様がいます、その人からの伝言です」
「うるさい、伝言なんていい、あっちいけ」
「えー、でもあなたには聞いてほしいことなんですが」
「うるさい!どっかいけ!」
「ぶー、わかりました、なら夜寝るときにあなたに直接話せるような方法を教えておきます」
福神漬けとなのった男は俺の背中あたりにいろいろと話していた。
気持ち悪い・・・
「あー、あとこの聖杯を明日の朝に飲んでください、絶対ですよ。ではまたいつかわからないけど会いましょうね」
笑顔で手を振りながら見えなくなるまでこっちをむいていた。
見えなくなった途端に渡された物を捨てた。
こんなものはいらない…
ひさしぶりに一人ではなかった日なのにいらいらとして、親戚の家にもどった。
夕飯も食べずにベッドに横になり、寝てしまった。
・・・夢の中で
「兄さん、起きて」
俺はゆっくりと体をおこしまわりをみた。
見覚えのないところにいた。
(あ、これは夢の中か)
子供のころに遊んだ場所や最近すみはじめた町の風景、そして人が一人もいない状況、空は赤いが太陽が真上に見える不思議な感覚の場所。
「起きた?兄さん」
まわりが広い草原であるのに透き通るような声のもちぬしの言葉が反響をしていた。
なんとも不思議な感覚だった。
「・・・?誰だ」
もう一度声をかけられた。
「上をみて」
人の言うことを聞くのは嫌いであったがなぜかその声には素直に耳をかたむけ、上を向いた。
上をむいたらなんと翼を大きく羽ばたかせ、女性がいた。
顔は見えずらいが声でだいたいわかった。
「天使が何のようだ、俺は数年前のことから天使は嫌いなんだ。夢の中とはいえでてくるな」
「なんで、兄さんはいつも人を離そうとするの」
「…兄さん?」
懐かしい声、懐かしい髪の色、そして懐かしい俺の呼び方。
「セラ!」
「何?兄さん」
容姿や髪の長さ、顔つきすらかわっていたが昔のままの優しそうな雰囲気、そして人に優しい気持ちはかわっていなかった。
「お前…死んだんじゃ…」
「妹に向かってそんな言い方はないでしょ」
「…すまん」
久しぶりにセラにあったことで興奮するはずが、逆に心は落ち着いて話せた。
ただ死んだはずと考えていた相手が目の前にいる、夢の中とわかっていても目の前にいることが自分の手で守れなかった相手がいることが少し気弱にさせていた。
「あやまらないで、確かに私はあの時にモンスターに襲われて死んでしまったけど」
「……!」
死んだと頭の中で理解していても本人の言葉でいわれると心がものすごく苦しくなった。
「でも…でも、私は兄さんに助けられたと思ってるよ」
「俺は何もしてやれてないぞ…」
「してもらったよ、お墓の前でね」
あの時に何をした?と考えたがなにもうかばない。
せいぜい花をそえて独り言をしゃべっていただけだ。
だが…
「兄さんが…兄さんが私に死んだことを教えてくれたし、この世の未練を取り除いてくれたの」
「死んだことを教えた…?それに未練を取り除いたって…」
「死んだことは所々兄さんが涙を流したことであぁ、自分は死んだんだって漠然とわかって、そして最後にいつになるかわからないけどっていったところで自分はここにいたら心から思ってくれた言葉を送ってくれたことがうれしかったから神様のところへいけたの」
「俺は何も考えずにいっただけだ…セラのためにいったかどうかってわからない」
「・・・兄さん、人間ってね無意識のうちに言葉に思いをのせてしゃべってしまうの。言霊(ことだま)って言うんだけど悲しみや怒り、楽しみや喜びなどもあるけど感情だけじゃなく自分の無意識に考えている今の気持ちっていうのものせているから」
難しく思えたがいつのまにかセラに自分の気持ちがつたわってしまったようだ。
考えれば合点がいくところがある。
普通モンスターに殺された人は恨みをもって本人自身がモンスターになってしまうのに恨みもなく天国にいけたこと。
死んだということを理解していること。
夢の中とはいえ笑顔で俺の前にいるということ。
などがある。
それでも納得できないところがある。
「神は見放したんじゃないのか…?」
「神様はね、手出しできない枷があるから心を痛めながら私たちを見るしかないの」
「なら、その枷をはずせばいいじゃないか!」
「はずせないからこそ私たち天使がいる、でも天使っていうのは肉体がない霊体だから助けたくても助けられない…」
「セラを否定するようで悪いがやはり神なんて…」
「だから神様たちは地上の生物である人間にできうる限りの力をかしてあげてるの、プリーストには天使や天使長の力を、ウィザードには多くの精霊たちの力を、そしてローグやアサシンには闇の精霊や風の精霊や地の精霊の力を貸してモンスターたちによって人間たちが殺されないようにしてるの」
「…俺たちローグですら?」
「そうだよ、ローグだって人間から盗むわけじゃないし人を殺すことが楽しんでやることじゃないでしょ?」
「ああ…」
「まあ、ごく一部の人はそういうことする人いるけどその人たちだって何かしら生き延びる理由でそんなことをしてる人もいるし悪魔にとり憑かれることだってある、それは知ってても少なからず罪悪感というものを感じてしまうからその罪悪感がある限り助けたい、救いたいって言ってたよ」
「だがそれとセラが天使になったこととは関係ないのでは」
「大有り!!」
びしっと指をバレンティーアにむかってさした。
「相手に向かって指をさすんじゃない!」
「あ、ごめん」
笑ってあやまったことにより強く押すことができなくなってしまった。
(昔はここまで明るくなかったがよかった…)
「私って神様の加護があるって兄さん言ってたよね」
「・・・昔に言ったな」
「神様の加護があったから私は死んだあと天使にしてもらってある仕事をもらったの」
「・・・?」
「それはね、私たち天使は一人の人間に一緒にいてその人間の手助けをしてあげることが仕事なの。私が手助けする人が兄さんなの」
「本当か!?」
「うん、前任の天使の人が気をきかせて交代してくれたみたい」
セラと一緒にいられることがうれしいバレンティーアは少しではあるが神に感謝をした。
「それじゃあ兄さん、昔の人間だった私ではなく天使の私としてこれからよろしくね」
「ああ、今ここに俺とセラと一緒に」
セラは何か思い出したかのように手をたたいて話しかけた。
「そうそう、母さんのことだけど母さんは天国に逝く予定だったけど神様が手引きをしてくれたみたいで父さんだけの天使にしてもらったみたい」
「そうか、二人も一緒になれたんだ・・・よかった」
いつも肌身離さずに持っていた母さんのサンゴの髪飾りとセラのイヤリングを手に出してみせた。
「これ、セラのイヤリング今返すよ」
「いいよ、兄さんが持ってて。大切に」
「でもセラのだから」
「私は夢の中で兄さんと会って話せれば十分だし私は大切に持っていてくれる兄さんだからこそ持っていてほしいの」
「・・・わかった、絶対に大事にするよ」
セラは微笑んで目の前から消えた。
そしてバレンティーアは消えたと同時に目が覚めた。
「・・・朝か」
バレンティーアは寝巻きから着替えて普段着を着て台所に向かった。
「・・・おばさん」
「・・・なんだい」
「おはようございます」
「・・・はい、おはようさん・・・え?」
普段は用事の時以外は声すらかけないバレンティーアが朝のあいさつをするなんて考えられないことだった。
叔母は返しであいさつをしたがそのあとに驚きが隠せなかった。
数十分後
「それじゃあ、今日も外にいってきます」
「いってらっしゃい」
根はバレンティーアも叔母もまじめなためかぎこちない話ではあるが普段しない出発の挨拶をした。
そして昨日と同じ場所に来て。
「・・・やはりいたか」
「やあ、昨日ぶりですね」
「昨日はすまなかったな、あんなことをして」
「大丈夫ですよ、ああなることは予想できたので話すきっかけでしかなかったですから」
「・・・そうか」
「天使の妹さんとの再会もできたみたいだし、最後の仕上げしますね」
「仕上げ?」
「ええ、これを飲んでください」
昨日わたした聖杯と同じだった。
「さっきこれはきっかけでしかなかったと・・・?」
「昨日のはただの水です、これは聖水です。まあ、つくりは塩水なんですがね」
「・・・意味はわからんが天使にあわせてくれたお前の言う事を聞いたほうが礼儀に反するな」
うれしそうに福神漬けは聖杯を手渡して何かの準備をしはじめた。
「それじゃあその聖杯の中身を全部飲んでくださいね」
バレンティーアは言われるがままに飲んでいった。
「それじゃあこっちも最後の仕上げいきますね」
福神漬けは手に神官の杖を持ち呪文を唱えた。
「Antidotum Nazareni auferat necem in,toxicationis sanctifice alimenta pocula trinitatisalma.(癒しの力が、聖なる三位一体の養いの力によって聖別された食物や杯から毒の害をとりのぞく)」
呪文を聞きながら聖杯を飲んでいたら内側からなにか軽くなったような感じがした。
「あなたの中に悪魔が残っていたみたいですね、数年前に何か大きな討伐があってそのときにモンスターの霊体に憑かれたみたいです」
数年前・・・村であったあの時のモンスター襲撃のか・・・。
「それじゃあこれであなたには私が手出しできることはもうないです。後ろの天使様とお幸せに」
「もう行くのか」
「はい、先ほども言いましたが私はあなたと天使様を合わせるのと今回の悪魔祓いが使命でしたから。それ以外では手出しできませんので」
「すまない・・・つらくあたったのにここまでしてくれて」
「いいですよー、使命でしたしそれに二人の笑顔を見れて気分は悪くないですから」
・・・二人の笑顔?
セラはよく笑うから福神漬けというやつが笑っているとわかるのはわかる。
だが俺が笑う・・・?
仮面をつけたバレンティーアと呼ばれた俺が・・・?
「実感できないみたいですが、時間をかければ自然とあなたのその笑顔はでてきますよ」
「・・・そうか」
「そうですよ。それじゃあ本当に私はこれで失礼しますね」
「・・・ありがとう、そしてまたいつか」
「はい、神の成すがままにいつかお会いしましょう」
福神漬けは俺からみても楽しそうな笑顔で手を振りこちらもうれしくなる。
俺も軽く手を振り、見えなくなってから反対方向へ向かい狩りへと向かった。
「・・・それじゃああらためて、俺はお前と一緒に行くことを誓う。そしてこの手にもったサンゴの髪飾りを父さんに返していろいろと二人で旅してみよう」
目に見えないが笑ったと実感できる感じがした。
「それじゃあ狩り行こうか」
セラはうなずき一緒に来た。
そして数年後。
俺がそれなりに強くなり、父さんに髪飾りを返しにいったが俺がもっているようにと言って今も手にもっている。
イヤリングと髪飾りを持ち歩き今日はKurisuと一緒にニブルヘイムに狩りへ来た。
「おやびんっていつもイヤリングと髪飾りもってるよね」
「そうだね、女性趣味?」
「そんなわけないって、ただ父さんが持ってろっていったから」
「そうなんだ。お、レベルアップおめ〜」
「あり〜」
「おやびんの天使って何となくおやびんに似てない?目や雰囲気が」
「そうだろうね」
「何かわけあり?」
「・・・俺だけの天使様だから似たのかもね」
「意味わからな〜い」
「いつか教えるよ」
「絶対だからね」
昔の仮面をつけたバレンティーアはもういない。
仮面をつけたときよりも素顔の笑顔が気持ちがいいから。
ぎこちなかった叔父叔母との関係も今となっては仲がよくなって時々帰って談笑するほど。
「それじゃあもうひとがんばりしますか」
「おー」
今はKurisuもいる。
そして俺の近くに天使であるセラがいる。
うれしい気持ちも少なからずセラを殺してしまった罪悪感もある。
だがその罪悪感を背負っても今の楽しい気持ちのほうが上まっているから罪悪感は大きな苦痛にならない。
もっと多くのものを見て歩いていって罪滅ぼしをしながら旅をして。
最後はKurisuと俺とセラで一緒に楽しくすごせたらいいと考えながら。
みんなとともに今ここに、うれしく考え一緒に歩もう
セラと俺と一緒に今ここに
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